こんにちは、坂バカ理学療法士のわさおです。
ヒルクライム用のロードバイクホイールは何を優先すべきだと思いますか?
「軽さ」を一番最初に思いつく人が多いでしょう。
では「空力」はどうでしょうか?
ヒルクライムのような低速の場合、空力はどれくらい重視すべきなのか、気になりますよね。
今回は軽さと空力、ヒルクライム用ホイールにはどちらがより重要か、考察していきたいと思います。
今後のホイール選びの参考になれば幸いです。
ヒルクライムとホイールが軽さの関係
結論から言いましょう。
確かに軽くなればヒルクライムは有利になります。
ただし、ホイールの軽さがタイムに与える影響は、極わずかだといえます。
ホイールで百グラム程度軽くしたところで、数秒タイムが短縮できる効果しかありません。
ただし加速はしやすくなるので、走りの質は上がるでしょう。
順を追って説明していきましょう。
一般的に、軽ければ軽いほど、楽に登れる様になると言われています。
なぜでしょうか?
「軽い=楽に登れる」という理屈を掘り下げてみましょう。
軽さがヒルクライムに有利になる理由は2つあります。
- 軽くなるほど少ない力で高いところに移動できるから
- 駆動部が軽くなると、加速時の力が少なくて済むから
こうやって書くと少しわかりにくく感じますね。
それぞれ詳しく説明していきましょう。
軽いほど楽に高いところへ移動できる
物理学において、物体を上に持ち上げるために必要な力は、質量×重力加速度(N)です。
重力加速度は大きく変わらないので、重要なのは質量です。
重さと持ち上げるために必要な力は比例します。
理論上は、重さが半分になれば半分の力で持ち上げることができます。
軽いほど楽に持ち上がることを考えると、これは当たり前ですよね。
ここだけ見ると、
「やっぱり軽さは正義だ!」
なんて思ってしまいます。
実際に軽さを追求するクライマーが多いのは、このためでしょう。
でも大事なのはここからです!
ヒルクライムで上に持ち上げる必要があるのは、ホイールだけではありません。
人間、バイク、荷物、すべてを持ち上げなければいけません。
乗り手の体重にもよりますが、全部合わせれば50kgは軽く超えるはずです。
ホイール交換による軽量化は、このうちせいぜい数百グラムの軽量化にしか関与していないわけです。
総重量が50kgだとしても、100gの軽量化は0.02%の軽量化にしか繋がりません。
銀行の金利みたいですね。
この数字、微々たるものに感じませんか?
つまりホイールの重量を少し減らしたところで、ヒルクライムが楽になると感じることはほとんどないでしょう。
まるで軽量化が無意味みたいな書き方ですが、
「いやでも駆動部が軽くなると効果が出やすいって聞いたよ!」
「ホイールが軽くなると、実際に楽に登れたよ!」
という方がいると思います。
「上へ持ち上げる」という点ではホイールの軽量化は重要ではありませんが、軽量化にはもう一つのメリットがありましたね。
このあたりについて、もう少し説明しますね。
ホイールが軽いと加速しやすい
物体が軽くなると減るのは、持ち上げる力だけではありません。
物体が軽くなると、加減速に必要な力も小さくなります。
物体の加減速に必要な力は、質量×加速度です。
つまり同じだけ加速する場合、重さと加速に使う力は比例します。
とりあえず、軽くなるほど加減速がしやすくなると覚えておいてください。
逆に同じ速度で走り続ける場合、軽さは影響しません。
ただそれだと、先ほどと同じように総重量からみた数百グラムなんて微々たるものだがら、加速にも影響しないのかと思ってしまいますよね。
でも加速の場合は、少し違います。
ポイントはモーメントアームの長さです。
モーメントアームとかいかにも難しそうな横文字を出しましたが、簡単な話なので安心してください。
ロードバイクが加速する時、最初に動くところはどこだと思いますか?
フレーム?いやいや、フレームより先に動くところがあります。
ホイール?半分正解です。
確かに、ホイールが回ることによってバイクは進みます。
ではホイールのどこに力を加えているのでしょうか?
正解は、スプロケットです。(ペダルやクランク、チェーンも正解です)
ペダリングによってペダルに加えた力がチェーンを介してスプロケットを回します。
それがホイール全体を回し、バイクを進ませることになります。
つまりホイールの回転の力点はスプロケットなわけです。
でも実は、スプロケットに力を加えてホイールを回すのって力学的には不利なんです。
普通、手でホイールを回すときって、外側のタイヤ(リム)を持って回しますよね。
スプロケットをひねって回したりはしません。
実際にやってみると分かるのですが、スプロケットからホイールを回すのって、大変だからです。
なぜ大変なのでしょうか?
それは、リムが中心部から離れているからです。
ここから少し物理の話をしますが、なるべくわかりやすく話しますので頑張ってついてきてください。
回転物を動かす場合、中心部からの作用する物体までの距離をモーメントアームといいます。
「加える力」×「スプロケットまでのモーメントアーム」が「リムの重さ」×「リムまでのモーメントアーム」を超えないと、ホイールは動きません。
重要なのは、スプロケットまでのモーメントアームと、リムまでのモーメントアームが何倍も違うということです。
モーメントアームが同じであれば、リムの重さに必要な分の力をかければホイールは回ります。
しかしモーメントアームが何倍も違うので、リムが少し重くなっただけで、何倍もの力が必要になります。
簡単にまとめちゃいましょう。
つまりリムやタイヤが少しでも重くなると、ホイールを加減速させるときに大きな力が必要になってくるということです。
たった100gの増加でも、スプロケットに加える力は1kg分くらいにまで膨れ上がるわけです。
これが、駆動部のホイールの軽量化が特に重要視される理由です。
正確にはホイールではなくて、リムやタイヤなどの外周部の重さですが。
さて、話を戻しましょう。
ホイールのわずかな重さの変化は加減速のしやすさに影響しますので、走りやすさに影響します。
ただしホイールの軽量化がタイムに影響するかどうかは、どんな走り方をするかによります。
加速を多用する走り方をする人なら、速く登れるようになるでしょう。
一定速度で登る走り方をする人なら、変わらないでしょう。
つまり、軽量化によってタイムが短縮できるわけではありませんが、加減速がしやすくなるため走りの質を向上させることはできます。
ここまでが、ホイールの軽さがヒルクライムに与える影響です。
次に、空力についても考えておきましょう。
ヒルクライムとホイールの空力の関係
5%以上の勾配では空力はほとんど影響しない。
ホイールの空力アップは、5%以上の勾配では効果がありませんが、総合的なヒルクライムのタイム短縮には効果的です。
どういうことでしょうか?
ヒルクライム中にかかる抵抗は、以下の4つに分けられます。
- 重力抵抗
- 空気抵抗
- 転がり抵抗
- 駆動摩擦抵抗(これはかなり小さいので、以降は省きます)
どの抵抗がどれくらい影響するか検証したデータがあったので、紹介しましょう。
緩斜面(勾配3%):重力抵抗50%、路面抵抗25%、空気抵抗22%
通常(勾配5%):重力抵抗66%、路面抵抗20%、空気抵抗11%
急勾配(勾配10%):重力抵抗82%、路面抵抗12%、空気抵抗3%
このデータで考えると、やはり重力抵抗が一番大きいようです。
反対に、空気抵抗は20%以下と考えてよさそうです。
そうです、軽さと同じで空気抵抗もそこまで大きい影響があるわけではありません。
しかも空気抵抗を増やしているのは、バイクよりも人間の体です。
勾配が5%以上の坂道を登っているときは、ホイールの空力の影響はほとんどないと考えていいでしょう。
でも、僕はヒルクライムに空力が不要だとは考えていません。
なぜなら、峠道には平坦や下り区間が含まれている場合も多いからです。
下りになれば空気抵抗は全抵抗の80%以上になります。
もちろんコースレイアウト次第ですが、これは大きなアドバンテージだと思います。
富士ヒルのコースとして有名な富士スバルラインなんて、最後の1kmが平坦ですので、空力のいいホイールならそこだけで数秒短縮できるはずです。
はい、たった1kmですが、空力だけで数秒は短縮できます。
それくらい、平坦での空力の影響は大きいのです。
リムハイトが高くなるとどれくらい空気抵抗が減るのか
リムハイトが高くなればなるほど空気抵抗は減ります。
問題は、どれくらい減らせるか、だと思います。
残念ながら、この疑問に対して明確に回答できるデータはありませんでした。
ただ、ロープロファイルホイールとディープリムホイールで同じ速度で高速巡航した場合、ディープリムホイールの方が数ワットだけ少ない力で走れるそうです。
数ワットなんて、微々たるものですが、ロープロからディープリムにすれば数秒単位では影響してきそうですね。
さて、ここまで両者を詳しくみてきましたが、そろそろクライマックスです。
ヒルクライムにおいて、軽さと空力はどちらを優先すべきでしょうか?
「軽さ」VS「空力」
コースにもよりますが、空力がヒルクライムのタイムに与える影響は、数秒単位なんじゃないか、という話はしました。
一方で、軽さはどうでしょうか?
1kg軽量化すると、100m登るごとに3〜4秒短縮できるそうです。
ただしホイールの軽量化なんて100〜200gが限界です。
1000mも登れば、数秒は短縮できそうです。
つまり軽さも空力も、数秒しかヒルクライムのタイムに影響しなさそうです。
でも両者には重要な特性がありました。
軽さは加速に有利なため、勾配差が激しい峠では理論値以上の効果をみせるでしょう。
空力は平坦や下りに強いため、平坦・下り区間の多い峠で理論値以上の効果をみせるでしょう。
そう考えると、コースレイアウトによってどちらの性能を求めるべきか変わりそうです。
勾配差のあるヤビツ峠や白石峠なんかは軽量ホイールの方が有利そうです。
下りの多い都民の森や榛名山なんかは空力重視のホイールの方が有利そうです。
富士スバルラインは微妙なところですが、最後の平坦区間を考えると空力を重視すべきでしょうか。
富士は好みが分かれそうですね。
コースによって軽さと空力、どちらを優先すべきか変わります。
【まとめ】ヒルクライム用ホイールに優先すべき性能は?
最終的な結論を出しましょう。
数秒レベルでのタイム短縮を狙うなら、軽さと空力どちらも同じくらい優先しましょう。
ここまでで長々と説明したとおり、どちらを優先すべきかはコース次第だからです。
登る峠が1つならいいですが、たいていの人は1つだけではないですよね。
そうなると、どちらも優先したセミディープホイールあたりがヒルクライム向けのホイールといえそうです。
数秒レベルでタイムにこだわらない人は何を優先するのがいいでしょうか?
僕は見た目を優先すべきだと思います。
かっこいいホイールはモチベーションが上がってトレーニングが捗るからです。
結局トレーニングのモチベーションを上げることが一番効果的ですからね。
というわけで、自分の好きなかっこいいホイールを選んじゃいましょう!
ホイールがヒルクライムに与える影響なんて数秒です。
脚力があればディープリムホイールで激坂も十分登れますよ!
最後までお読みいただきありがとうございました。